実は、KIMURAは今年が活動10年目です。
2016年に発足して以来、世紀の名品narrowing cardigan(シャツカーディガン)を筆頭に、数多くの衝撃的傑作を発表し続けてきました。
「シャツしか発表していないトータルブランド」という謎スタンスも、2023年にまさかのショートパンツが発表され、その後のコートのヒットにより「シャツしか発表していない」と「謎」がとれて、名実ともにトータルブランドになり…かかってきていますね。
オンラインストアやブログなどでの発表を前に完売することもしばしばあって(先週のミコト屋さんでのイベントでも大人気でした)、その勢いは留まるところを知りません。
当店は2017年からのお付き合いでして、その歴史のほとんどをともに歩んできたわけですが、いまもなお新作が出るたびに驚かされます。
このシャツも、一見「え、KIMURAなのにだいぶ普通…?」と思わせて、いやいや想像以上にKIMURA節全開です。


D shirtの“D”は“Dress”の“D”。
すなわち、KIMURA流のドレスシャツです。
KIMURA流というからには、ただ単に「仕立てのよい美しいシャツ」にまとめることはしません。
しかし、いままで以上に「仕立てのよい美しいシャツ」であることは意識されているようです。
それが、手縫いの駆使。

基本的にはほぼミシンで緻密に縫われているのですが、このアームホールをご覧ください。

判りにくいとは思いますので、先に説明してしまいます。
アームホール上部のみ、ステッチが表に出ず袖にギャザーが寄せられていますね。

ここのギャザーの部分のみ、木村さん本人の手縫いです。
もちろん手縫いであることには意味がありまして、これによって優美な印象が生まれるだけでなく、肩の可動域が拡がっています。
手縫い箇所はほかにも。
バックヨークにも細かいギャザーが入り、ふわりとしたやさしい着心地に。

さらに言えば裾脇の三角ガセットも手で縫いつけられています。

この繊細な仕事、ナポリの高級手縫いシャツを彷彿とさせますね。
“D”の名は伊達ではないようです。
それでいてさらにDressであることを追求してしまうのがKIMURA。
ボタンに目を向けてみましょう。

すべてのボタンの糸足に、ごく小さなビーズが通されれています。

たしかに糸足が高くなり、ここに球体の曲線が加わることで脱着は容易になるかも知れませんが…実用的なディテールというより、ロマンのほうが大きそうです。
この手のかかる仕様のためか、替えボタンにもすべてビーズが通されており、不意な脱落にも対応しています。

なお、ボタンの大きさは3種類。
大が前立てとカフス、中が台襟、小が剣ボロ用です。
ついでに申し上げますと、ボタンもすべて手縫いでつけられています。
さらに手縫いの話をさせてください。
肩甲骨に合わせるため、バックヨークの上下の幅がやや狭くなっているのですが、このため縦長のKIMURAネームラベルがヨークからはみ出てしまいます。
そこで、ネームラベルの正面から覗く部分(上部)にはラベルの色に合わせて白を、

後身頃にはみ出ている下部にはボディと同じダークグレーの糸を用いて、手縫いにて玉留めが施されました。

こうすることで、ラベルを縫い留める糸が悪目立ちしません。
研ぎ澄まされた美意識が、こうした細部にも徹底的に貫かれています。
なお、生地はKIMURA別注のフィンクスコットンブロード。
しっとりとした肌触り、適度なハリ、そして木村さんの調色による仄かに赤みを帯びたダークグレーが、実に官能的です。
着用時のシルエットの美しさ、ストレスフリーの着心地に関しては、もう言うまでもありません。
実際に袖を通していただければ、ああだこうだといった説明など不要なはずです。
10年目も安易なルートを選ばず、ただただ求道的に魔の道を歩むKIMURA。
D shirtの“D”は、ひょっとすると“Diabolical”の“D”でもあったりするかも知れませんね。
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