ご存知の通り、7/20は参院選(横浜ではこれに市長選も加わります)。
とはいえ、自分の一票なんかで何も変わらない、だれが当選したって一緒、だから選挙なんて行かないよ、そのようにお考えの方は多く、それも已む無しと理解できなくもない堕落した政治状況がずっと続いてきました。
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けれども、選挙は単なる多数決ゲームではなく、そして当選は無条件の全権委任を意味しません。
選ばれた議員がそれからの任期で何をしたか、だれのためにどう動いたか、絶えず監視しプレッシャーをかけ、ときに声を上げる、それこそが民主主義の担い手として我々個々の国民が選挙後にもすべき行動です。
しかしそこに至るプロセスとしての選挙はやはり重要で、責務ある社会の一員である以上、他人事として考えるべきではありません。
選挙に行けるのに行かない、でも社会や政治の現状に不満を抱えている、というのは妙な話です。
投票権自体、日本に住んでいるからといってだれもが持てるものでもないですし、せっかくの一票を無駄にしないよう、真剣に考えて行使しましょう。
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さて、もちろん弊ブログではどこの党やどの候補者に入れてくださいなんて野暮な呼びかけはしませんが、せっかく選挙について触れてみましたので、いったん俯瞰してみると、今回はあるトレンドがいつも以上に顕著です。
そのトレンドとは、ファシズム。
さまざまな事前調査をみると、ファシズムを打ち出す政党への民心の傾倒は明確に見て取れます。
ウンベルト・エーコ『永遠のファシズム』によると、ファシズムの典型的な特徴は下記の通り。
1. 伝統崇拝
2. モダニズムの拒絶
3. 「行動のための行動」崇拝
4. 批判を受け入れない、意見の対立は裏切り行為
5.「差異の恐怖」を巧みに利用し増幅することによって合意をもとめ拡充する
6. 個人もしくは社会の欲求不満から発生
7. ナショナリズム、心因の根源に抱え込んだ陰謀の妄想
8. 「敵」の力を客観的に把握する能力の欠如
9. 平和主義を悪とする
10. 大衆エリート主義
11. 一人ひとりが英雄となるべく教育される
12. 女性蔑視、非画一的性習慣に対する偏狭な断罪
13. 質的ポピュリズム
14. 貧弱な語彙と平易な構文を基本に据えた「新言語」の使用
とりわけ、5、6、7、9、10、12、13、14は、いまや党勢を拡大するには不可欠の要素といっても過言ではありません。
とくにオレンジ色の政党は見事なまでにこれらの特徴をしっかりと満たしており、今回野党第一党になりそうなくらい急速に支持を拡大。
他党もその驚異的勢いは意識せざるを得ないようで、与野党問わず続々と外国人はじめマイノリティへの弾圧を「うちのほうが苛烈にやりますよ」とアピールしたり、あるいは誤認を狙ってか服やポスターなどにオレンジ色を多用したりと、投票日に向けていろいろな対抗手段を打ち始めています。
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「日本人ファースト」。
独逸学園があり、もちろんドイツ人以外にもさまざまな国から来た人が暮らす仲町台でさえ、このスローガンを駅前で見かけることがあります。
「“日本人(その定義は恣意的)”でない連中なんて二の次です」「日本に住んでいるからってだれもかれも平等には扱いません」というメッセージでもあるわけで、その“日本人”でない人たちがそれを見てどう感じるか、そこに思いが至っていないのか、それともわざとやっているのか。きっと後者だと思いますが。
何にしても、その文言に惹きつけられる“日本人”は日に日に増えています。
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1位「外国人」2位「減税」3位「消費税」 参院選・ネット投稿から浮かぶ争点とは(河北新報)
こちらのメディア調査によると、いまや参院選に於ける関心第1位が「外国人問題」。
もはやこの「外国人問題」という言葉が、フワッとした印象だけで独り歩きしており、おそらく何も実害を受けていない多くの人までが、世間のムードに染まって「ガイジンコワイ」「ガイジンは迷惑」と思い込むようになってきているようです。
われわれは、最上級のチョコレートはどこそこのチョコレートである、と百回も読んだときには、そういう噂を頻々と耳にしたような気がして、遂にはそれを固く信ずるようになるのだ。(中略)甲は不埒極まる破廉恥漢であって、乙は極めて誠実な人であるということが、同じ新聞にくりかえし述べられているのを見ると、われわれは、いうまでもなく、この二つの形容詞が逆に入れかわっているような、反対意見の他の新聞をしばしば読みさえしなければ、そのことを固く信ずるようになる。断言と反覆に対抗できるほど強力なものは、これまた断言と反覆あるのみである。
ギュスターヴ・ル・ボン『群衆心理』
刺激的でわかりやすく視聴者の歓心を得られるため、テレビやYouTubeなどにはゼノフォビアを煽るコンテンツが溢れています。
そうして「不逞ガイジン許すまじ」を何遍も目にしたり耳にしたりしているうちに、それがさも自身にまで危機の及ぶ事実として刷り込まれ、義憤が駆り立てられていくのでしょう。
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経済状況が悪化し、社会への不満が高まると、攻撃しやすく反撃されづらい「悪者」を探しスケープゴートとして糾弾してスカッとしたくなる、それが人間のサガなのかも知れません。
ここ20年を振り返ってみると、我が国では、生活保護受給者、公務員、高齢者、障害者、女性、そして外国人といったさまざまな属性が「あいつらズルしてる」「不当に得してる」と槍玉に挙げられてきました。
その結果、何がよくなったかといえば、何もよくなっていません。
むしろ状況は悪化しています。
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服屋、とくに当店のような生活必需品でない服を売っている店は、社会の経済状況やムードに大きく左右されます。
たとえば今年のお米の高騰なども、はっきりと影響が出るものです。
ここで必要なのは皆が豊かになることであり、「ズルしてるだれか」を(実際にズルしているかどうかの事実すら無視してまで)見定めて蹴落とし、相対的に「豊かでない」人を生み出すことではありません。
そして現状の生活がどうしたって豊かになれないのだとしたら、それは「ズルしてるだれか」でなく政治が原因です。
だからこそ、少なからぬ政治家やそれを志す人、団体は、自分たちの過ちに目が向かぬよう「ズルしてるだれか」を名指しして石を投げるよう仕向けているわけですね。
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日本は内心の自由が認められている国ですから、「自分の生活が豊かになったり皆が幸せになることより、気に入らないやつをギャフンと言わせたい」を最優先事項として考えるのも自由といえば自由です。
また程度の差はあれ多くの人がそのように考えているからこそ、差別主義者、排外主義者、国粋主義者の人気がどんどん上昇しているのでしょう。
いずれ – 場合によっては今回の参院選で圧倒的民意として示される形で – こうした価値観が多数派にとっての揺るぎない社会正義となるかも知れませんが、服屋としても個人としても、そうして憎悪や妬み僻み嫉みベースで社会を築くより、明るいムードのなかで多くの人が服やいろんなものを愉しめる世の中になったほうがいいのにな、とは思っています。