あの人はもう思い出だけど 君を遠くで見つめてる ~ ASEEDONCLOUD/ Railway uniform trousers, jacket & coat

11月に入り、秋の深まりをしみじみと感じます。

そろそろ、<憶念車>の車掌さんが例の仕事の支度を始める頃ではないでしょうか。

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ここではないどこかの話、毎年、冬支度をはじめるころ、<憶念車>の車掌さんのもとには何通もの手紙が届きます。

車掌さんは、手紙を読むと行き先と日取りを決めて、当日の乗車券をそれぞれの依頼人に送ります。

依頼人が乗るのが<憶念車>、年に数回、こうして人々の思い出の地を走る、不思議な列車です。

乗客は、自分そして他者の記憶を巡りながら一年を振り返り、その旅をまたさらに思い出として、新しい年に臨みます。

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この<憶念車>の車掌さんが仕事着として着ているのが、Railway uniformシリーズ。

収容力と機動力を重視した設計のカーゴパンツに、機能的なポケットが特徴のノーカラージャケット、その上に羽織るハーフコート、どれも、人の思い出という大切なものと関わる仕事に向き合って丁寧に設計されています。

では順を追って見ていきましょう。


まずこのパンツは、車内外でのさまざまな作業に対応しやすいよう、運動性を確保するため立体的に構築されています。

上着に収まらない細々とした道具や贈り物などを収納できるカーゴポケットがつき、

それをカバーする大ぶりのフラップにもハンドポケットが設けられています。

上着を脱いでもそこまで問題にならないほどの充実した収容能力ですね。

ということは、セットアップの上着を羽織れば、もはや歩く鞄です。


胸元のポケットにはホイッスルを入れるための小ぶりのポケットが重ねられ、

裾のポケットは乗客から受け取った大事な手紙を落とさぬよう大きなマチが設けられています。

袖はハンティングウェアのような可動域の広い構造で、

身体を使う作業にも難なく対応。

ちょっと面白いのが、このジャケットはベストに袖がついたようなデザインですので、上に外套を重ねることで三つ揃いのようなかしこまった雰囲気を出すことができます。

というわけで、同シリーズのハーフコートはジャケットの上に羽織れるよう肩幅や身幅にしっかりとゆとりをもたせた設計になっています。


このハーフコートにも、<憶念車>車掌のためのギミックが。

まず、左ラペル内側にはボタンを留めたままでも使用できる位置に時刻表ポケットが設けられています。

昨今はなんでもかんでもデジタル化が進められていますが、ハッキングなどのリスクも増す一方で、昔ながらの紙の時刻表の価値もあらためて見直されそうですね。

くわえて、胸元の左ラペルのフラワーホールと貫通する位置に、

ペンや思い出の花などを挿せる細長いポケットが隠されています。

さすがに、ふだんの業務中は花よりもペンを挿すことが多くなりそうではありますが。

なお、いままで紹介してきた3点とも、Super110’sのウールを使用し尾州にて高密度に織り上げたメルトンで仕立てられています。
しっとりした肌触り、高い保温性、美しい肌理、どこをとっても言うことなしの素敵な生地です。

そのうえで、コートだけはもう一種の生地もご用意しました。


このサキソニーも尾州で仕立てられた上物です。

お祖父さんのワードローブに眠っているような、懐かしい雰囲気の柄ですね。

こちらはセットアップではなく、さらに他のブランドを視野に入れた自由な組み合わせを想定しております。
とはいえもちろん、ブルーグレーのメルトンも、セットアップでなく単品使いしやすく、お好きなようにお召しいただければ幸いです。

オンラインストアはこちらです→
Railway uniform trousers グレー
Railway uniform jacket グレー
Railway uniform coat グレー/ グレイッシュベージュ

ぼくはシナモン   ~ EL CINNAMONS Vol.5

インターネットが普及し、発信の中心はSNSとなり、AIがクリエイターを駆逐し…あらゆるコンテンツが、低コストで作られ低コストで享受するのが当たり前となってしまいました。

しかしその反面、ネットやSNSといったデジタル媒体は依然として多くの問題を抱えています。
そのひとつが、保存性です。

数年前、当店もよくお世話になっていたウェブメディアFACYが突如としてサービス終了し、それに伴い何年にもわたって当店が関わってきた記事が一瞬にしてこの世から姿を消してしまいました。

90年代座談会と音楽遍歴インタビューだけは当時のライターさんの協力を得て救出し、当店のブログに引っ越していますが、プレイリスト企画やインタビュー記事など、多くの記事が亡きものに。

あらためて、ウェブ媒体の儚さを噛み締めたものです。

蓋し、何百年、いや千年以上昔のことがいまでも伝わっているのは、紙をはじめとした物理的媒体が残されたからこそ。
おそらくデジタル媒体が中心となった2010年代以降の情報は、後年研究するにしても大いに苦労するのではないでしょうか。

そうした保存性から話を始めましたが、もちろん紙媒体の長所はそれだけではありません。
物理的媒体ならではのデザインの自由度、温もりある紙の質感、いつでも好きなように頁を繰ることのできる気軽さ。
いまこそ、紙媒体、紙の雑誌を再評価すべきタイミングに来ているのではと思うばかりです。

しかしマネタイズの難しさから、いまや紙の雑誌は活況とは言えぬ状況にあります。
ライトな情報ならネットでいくらでも無料で得られる時代、お金を払ってまで良質な情報を求める人は減る一方。
昔のような、多くの人に読んでもらって売上や広告収入で大きな利益を出すというビジネスモデルは、成り立ちません。

そこで注目すべきはインディペンデント誌。
いわゆるZINEもですが、マスマーケットを目指さないからこそできる純度の高い表現があります。

さて、関東ではどうしても情報の発信の中心地は東京になってしまいます。
資本、人材、ネタ…さすがに東京の優位性は圧倒的です。
そして東京は言わずと知れた日本の首都であり、となると必然的に全国水準の内容となり、ローカル感は薄れざるを得ません(「下町」「町中華」のような切り口になってしまいがちです)。

だからこそ、東京発のメディアとは異なる視座の、横浜発のメディアを求めていました。
もうどうしても見つからなければ、自分で制作するしかないのか…。

求めよ、然らば與へられん。尋ねよ、さらば見出ださん。門を叩け、さらば開かれん。
すべて求むる者は得、たづぬる者は見いだし、門をたたく者は開かるるなり。

(マタイ傳福音書 7:7-8)

と思っていたところでの邂逅、求めれば出会えるものです。

それではご紹介します、『EL CINNAMONS』。


横浜からシナモンフィーリングを発信するインディペンデント誌です。
当店では第5号からお取り扱いを開始させていただくこととなりました。

今号では、フィクションと現実を織り交ぜながら独自のストーリーを描き出す謎多きアンダーグラウンドラッパー、RAMON CASTRO(菊名出身・獅子ヶ谷在住)を15ページにわたって特集、その他多岐にわたる書き手がエッセイ、小説などを発表しています。

さて、サラリと流しましたが「シナモンフィーリング」とはこれ如何に。
「ああ、シナモンフィーリングね」と納得された方はほぼいらっしゃらないことでしょう。

それもそのはず、これはハマのラテンブーガルー歌手、チャーリー宮毛氏命名のオリジナル概念です。

たとえば、NYの下町に見る色使いの派手な手書き看板、安ホテルのラウンジのコーヒーの味、三流デパートのエスカレーター付近のペンキの匂い、地下鉄のなかで聞こえるトリッキーなスパニッシュ・スラング…。
こうした妖しくチープな空気を形成する諸要素と出会った瞬間に感じる懐かしくも新鮮な異国情緒、気の遠くなるような心地好さ。
また、心地好さとは対極のトラブル感やアンラッキー感をも含みます。

まさしく、横浜そのものです。

横浜という街の魅力は、多様性そのものだと考えています。
それは国籍、人種、宗教といった話に限らず、地域や町ごとの特色の違いなど、あらゆる差異の差異のままの共存です。
多様性、すなわち「雑」。

『EL CINNAMONS』は、いわゆる音楽誌でもなければ文芸誌でもなく、カルチャー誌と表現するのも何かしっくりこず、つきつめれば「雑」誌に他なりません。

だれもが知る業界の大物やご意見番が出てくるわけではなく、ローカルで、一貫性もそれほどない、混沌とした構成です。
しかし、この混沌ゆえに、読者と未知との遭遇が発生します。
整然と「ジャンル」「界隈」でパッケージングされた雑誌からは得られない刺激的な体験が、ここにはあります。

なお、CINNAMONSが複数形なので文法上はEL CINNAMONSでなくLOS CINNAMONSが正しいのですが、敢えてELで通しています。
この「雑」さもまた、シナモンフィーリング。

全120頁、下記の通りの構成となっています。

【巻頭イラスト】
CINNAMON’S BACK IN TOWN 牛島章雄
【巻頭エッセイ】
UNLUCKY SEVEN7 チャーリー宮毛
【特集】
RAMON CASTROインタビュー 街の風景を歌う
【エッセイ】
マーク・リボーの「にせキューバ人」に出会ったころ ワダマコト
賑やかで哀しいスリム・ゲイラードの三冊 河内 卓
タイムマシンとしてのラテン・カヴァー 武田 洋
沖縄の新世代レゲトンシンガー ザ・ピーニをめぐって 田中元樹
チカーノ奇譚 ―米国新婚旅行記― Count D.
【イラストストーリー】
HAVE A“CINNAMON”WEEKEND
【シナモンセレクション(4)】
古本泡山の10冊 スギタモエル
パライソレコードの10枚 野田晋平
【コラム】
CINNAMON BLVD.
キタン野郎/SaToShi mellow/荒井 青/奥村千織/トニー李/善吉ロドリゲス/寺田洋介/shozo ideta/田中元樹/寺田香代子/太田ニョリ/今井和枝/中村友貴/SUSHIRAW
【小特集】
Stroll Stranger Strawberries 佐藤遥加
【エッセイ&小説】
トロピカル・ダディ 三品輝起
冬の旅 吉久修平
女の生活 坂崎麻結
【巻末イラスト】
GOODNIGHT,CINNAMON BABY tact sato

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名前をつけてやる ~ EEL Products/ EARL SLACKS

昨日、早くも木枯らし1号が吹いたそうで、それもあってか急に秋の深まりを感じる木曜日です。

気分だけでなく身体も暖かい服を欲する季節に入りました。




EEL ProductsのEARL SLACKSが、ここにあります。

そもそもEEL Productsの“EEL”は“Easy Earl Life”の略で、Earlは「伯爵」を意味しますが、ニュアンスとしては「お気楽貴族的生活」といったところです。

そんなEarlの名を受け継ぐこのパンツは、バンド名を冠したアルバムのように、ブランドの現在地と自信を示す完成度を誇ります。

「伯爵」を彷彿させるクラシカルな第一印象ではあるものの、実際のところは「お気楽」にも近い設計で、ふっくらしたワイドシルエットが短めの裾丈で寸断された、チャーミングなシルエットです。

だいたいどんな靴にも合いますが、なかでもブーツとの相性は頗る好く、秋冬の装いに於いて八面六臂の活躍を見せてくれます。

生地の組成は、ウールをベースに、カシミアや補強のための化繊などをミックスしたハイブリッド構成。

ちょっとゴワゴワとした硬めの質感に見えて、実はとても柔らかく優しい肌触りが持ち味です。

膝まで裏地がつき、滑りが増しているだけでなく、防風性も高められています。

着用時のシルエット、穿き心地、使い勝手、どれをとっても文句のつけようのない逸品です。

開店当初(2015SS)からずっと継続してEEL Productsの服を取り扱ってきたうえで、このブランドの秋冬向けのパンツとしてはひとつの完成形に至ったのではないかと認識しています。

ゆえに、通常のS、Mのみならず、女性や小柄な男性にもお薦めのXSサイズも各色揃えました(ただし、弊ブログを執筆前にダークブラウンのみXSは完売してしまっていますが)。

ともかく一度穿いてみてください。
きっとこのパンツの虜になるはずです。

オンラインストアはこちらです→ ブラック/ チャコール/ ダークブラウン

LOVEサバイバー ~ mando/ ウールコットン マウンテンパーカ

雨の冷たい季節になってきました。
もう春や夏のように「濡れてまいろう」とはいきませんね。

となれば撥水性、防水性の高いアウターが重宝するものです。

が、ちょっと立ち止まってみましょう。

優れた機能性の価値はあらためて問うまでもありません。
最近は街でも違和感なく着られる洗練されたデザインのものも多く、うれしい限りです。

が、そうした使い勝手だけで服を選ぶというのも、なんだかあまりに合理的すぎて、正しすぎて、一抹の寂寥を覚えます。

人には、ときに「正しさ」よりも大事にしたくなる何かがあるのではないでしょうか。


そんな前振りで紹介するのがマウンテンパーカで、肩透かしを食らったような感覚に陥る方もいらっしゃるかと思いますが、どうかこのまま読み進めてください。

一般的なマウンテンパーカに用いられる生地は、ロクヨンクロス(コットン60/ナイロン40の軽撥水生地)や、もっと防水透湿性に秀でた素材が主流ですが、ここで使われているのはウール×コットンの綾織生地。

防水?何のことでしょう。
それより、この艶を抑えたシックな表情、生地のゆらぎ、実に上品ではありませんか。

裏地も防水性より肌触りや風合いを重視し、レーヨン×コットンのなめらかな生地が採用されています。

mandoらしい金のパイピングがまた美麗ですね。

そう、これはギアとしてでなく、あくまで美しさを追求したマウンテンパーカです。

しかしそれでいて、作り込みには一切の手抜かりがありません。

左胸と

両脇にはしっかりとしたマチつきのポケットが設けられ、

それぞれのフラップはスナップボタンで固定可能。

くわえて、右側の裏面にはファスナーつきのポケットが内蔵されています。

前立てはスナップボタンとファスナーの二重構造で、

ファスナーはダブルジップ式となっています。

換気だけでなく、座るときにも可動域が広がって便利です。

また、腰と

裾にはドローコードが通されており、

フィット感や防風性、そして全体のシルエットを調節することができます。

この「抜くところは抜く」「締めるところは締める」バランスの巧みさは、まさにmandoならではの妙技です。

いわゆるアーバンアウドドアやゴープコアとは別次元の発想の、都市生活をサバイブするための魂のアウトドアウェアが、ここにはあります。

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私は何を措いても彫刻家である ~ An Irrational Element/ Sculpture Trainer

My view of the matter, for what it is worth, is that there is no such thing as a logical method of having new ideas, or a logical reconstruction of this process.
My view may be expressed by saying that every discovery contains ‘an irrational element,’ or ‘a creative intuition,’ in Bergson’s sense.
In a similar way Einstein speaks of the ‘search for those highly universal laws … from which a picture of the world can be obtained by pure deduction.
‘There is no logical path.’ he says, ‘leading to these … laws. They can only be reached by intuition, based upon something like an intellectual love (Einfühlung) of the objects of experience. ’

仲町台に、An Irrational Element(AIE)が帰ってきました。

2年半ぶりの登場ですので、その名をご存じないお客様も増えてきたのでは。
というわけであらためて簡単に紹介をしますと、デザイナーKai Bolwijn氏が2017に発足した、アントワープに拠点を置くブランドで、「非合理的な要素」なる変わった銘は、冒頭のカール・ライムント・ポパー『科学的発見の論理』の一節から引用されています。

「すべての発見には、“非合理的な要素”または“創造的な直感”が含まれている」これこそ、名の由来のみならず、服作りの根幹です。

すなわち、新しさを生み出す手段として、合理性ではなく、敢えて非合理的な感覚、直感を組み合わせるということ。

何かと最短距離最小コスト最適解を求めがちな昨今の風潮に抗うが如く、ともすれば単なる無駄と見做されがちな非合理性を大切にする、その姿勢とプロセスが結果として美しさを生みます。

そんなAIEの代表作のひとつが、Sculpture Trainerです。

代表作と言いながら、実は当店では初のお披露目となりますが、そこはへそ曲がりなバイイングゆえ。
逆にさまざまなモデルを通してブランドを理解できているいまだからこそ、この名作を当店で取り上げるタイミングかと思いました。

ベースとなっているのは、言わずと知れたドイツ軍のトレーニングシューズ、いわゆるジャーマントレーナーです。

テーマとしたのは、あくまでプロダクトとして、美しく、そして多少のハードな使用にも耐えられる、汎用性の高いスニーカーであること。
ゆえに、ジャーマントレーナーのレプリカ的再現は目指していません。

それは、なぜこのモデルがSculpture(彫刻)と名付けられたのか、という理由にもつながります。

デザイナーのKaiは、ジャーマントレーナーを観察し、その大部分が直線的なラインで構成され、三角形の要素もいくつか含まれていることに気づき、それらを取り除きたいと考えました。

そこで、コンスタンティン・ブランクーシ、イサム・ノグチ、ウォートン・エシェリックといった彫刻家たちの円く曲線的な作品から着想を得て、ジャーマントレーナーの構造を再解釈、再構築しています。

まず、サイドラインを排除し、

トウや

ヒールの補強パーツをリデザイン。

直線や鋭いエッジを限界まで排除し、まろやかな曲線で構成された優しいフォルムへと生まれ変わらせました。

全体のバランスとしては、トウの短さや甲の低さなどがヴィンテージのスニーカーを彷彿させます。

この温かくノスタルジックなデザインをクリーンに引き立てるのが、上質な素材です。

イタリア産のソフトレザーを使用したアッパーは、トレーニングシューズと呼ぶにはだいぶ優美な印象を与えます。

ライニングの履き口と

インソールにも柔らかい牛革が用いられており、足に吸い付くような心地好い履き心地には驚かされます。

アウトソールには、ジャーマントレーナーと同じくBW SPORTを採用。

チェコのKSBW社が製造しているソールで、「BW」はブランド名でなくBUNDESWHER(ドイツ連邦軍)の略称です。

このチョイスには、オリジナルへのリスペクトが感じられますね。

昨今の円安などの社会情勢による要因もあって、決して安価なスニーカーではありませんが、それでも納得できるだけの出来栄えです。

長く愛せるレザースニーカーをお探しの方は、是非一度お試しを。

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いかれたbaby ~ written by

一時間、幸せになりたかったら酒を飲みなさい。
三日間、幸せになりたかったら結婚しなさい。
八日間、幸せになりたかったら豚を殺して食べなさい。
永遠に、幸せになりたかったら…釣りを覚えなさい。

作家・開高健が紹介したことで知られる、中国の古諺です(開高の創作との説もあり)。

開高のみならず、ヘミングウェイなど、和洋問わず多くの作家が釣りに魅せられ、そこから多くの優れた文学作品が生まれてきました。

残念ながら店主自身は子供のころに父親と何度か行った海釣り程度しか経験がないため、語る言葉を持ち合わせていないのですが、それはさておき、この遊戯は文学のみならず服にも多くのアイディアを齎しています。
フィッシングジャケットやベストが、その最たるものでは。

今季のリトゥンバイは、この機能的かつ限定的なスポーツウェアに着目。
独自のフィルターを通してアイディアを重ね、再構築しました。

まずはジャケットからご覧いただきましょう。



ベースにしたのは、いまはなきハンティング&フィッシングウェアブランドMASLAND SPORTSMAN’S CLOTHESの1940年代製フィッシングジャケットです。

もちろん、ただそのまま復刻、とか、素材を上質なものに変えて、といった安易な手法ではなく、構造と文脈を理解したうえでダイナミックな換骨奪胎が行われています。

まず目を引くのが胸元のボアですよね。

この部分には、深めのポケットが設けられています。

MASLANDのジャケットではここにボアでなくツルリとした質感の防水ラバー素材が使われており、BUILT-IN CREELと称されていました。

なぜ防水かといいますと、なんとこの用途は魚籠(ビク)。

つまり、釣った魚を、そのまま収納するためのポケットです。

もちろんこのジャケットのポケットに本物のお魚を入れるのは推奨できませんが、ここにボアを当てるのもまたフィッシングジャケットの文脈に即しているのが面白いところ。

フライフィッシングでは、毛鉤(虫を模した疑似餌)を用いるのですが、この毛鉤、一度濡れてしまうと表面張力を失ってしまい、水に浮かぶことができなくなります。
その対処用として、毛鉤を引っ掛けて乾かすためのムートンパッチと呼ばれる道具が存在します。

すなわちこのポケット、魚籠としての機能をもったポケットと毛鉤乾燥用パーツとしての機能をもったパッチ、それぞれの意味をわざわざ失わせて合体させているわけです。

それでいて、多数のポケットは機能的なまま。

何をどう使おうか、想像力が掻き立てられます。

背面にも大ぶりのフラップつきポケットが。

携行品の少ないシチュエーションであれば、鞄要らずですね。

さて、このジャケットと基本的な形状を共通にしたベストもご用意しました。


ジャケット、ベストともに、主に用いられているのは琵琶晒し染めを施したコットンの生地です。
しっかりとしたハリ、剛性を備えつつ、少し使い込んだような、角の取れた風合いを特徴としています。

すでに街着としても市民権を得ているフィッシングベストですが、さらに都市生活に馴染みやすいというのは言うまでもありませんね。

ジャケット同様、充実したポケットのお陰で、もはや着るバッグです。

さらに派生して、今度は生地も形状も変えた別のフィッシングベストを。


ウールとモヘアをブレンドした、ふわふわのダブルフェイス生地で仕立てられています。

ますます釣りに適していない生地のチョイスではありますが、こちらのほうが一般的なフィッシングベストに近い構造ですかね。

ヨーゼフ・ボイスが着ていたのもこうしたマルチポケットタイプ。

ちなみに、フィッシングベストは、フライフィッシング界のレジェンド、リー・ウルフ(Lee Wulff)氏が考案したと云われています。

1960年代初頭にColumbia Sportsが初めて世に出したと伝えられることもありますが、同社は豊富なバリエーションを開発し、フィッシングベストを世に広めた、という評価が正しいようです。

アメリカン・フライフィッシング博物館の刊行物『The American Fly Fisher』によれば、リー・ウルフは当時の釣り人の服装に不便を感じ、多くのポケットを備えたベストを考案、1932年に自作の一着を完成させました。

当時はベストの上にツイードジャケットを羽織り、ネクタイを締めて…というのが一般的な釣り人のスタイルだったようですから、その発想の革新性は驚異的です。

さて、そうして産声を上げてから100年近くが経過したこのマルチポケットフィッシングベスト、長い歴史の中でさまざまなメーカーが研究、開発を重ねてきたもので、そして基本的に個々の釣り人のスタイルが答えを出すものゆえ、このポケットは絶対にこれ用、といった厳密な雛形やルールがありません。

ですので、このベストについている大小さまざまなポケットも、自分ならどのように使うか、イマジネーションを駆使してみてください。

左側は主にフラップ+スナップ式、

右側はスナップつきの肩を除けば

オープンな形状、と、すべて大きさも形も違いますが、意外と頭の中で整理しやすい配置になっています。

背中のドローコードつきポケットも、何を入れようか、あれこれ考えるだけでワクワクしてきますね。

腰にはフィット感を高めるアジャスタも付属し、兎にも角にも盛りだくさんなデザインです。

それでいて、生地の風合いもあって、ゴチャゴチャとうるさくせず上品にまとめてしまうのがさすがリトゥン。

釣りや、アメカジ的文脈から解放され、構造そのものを堪能できる一着に仕上がっています。

ジャケット、ベスト、ともに、本格的なギアに馴染んでいる釣り愛好家も、ふだん釣りとは縁がない方も、お好きなように愉しくお召しいただければ幸いです。

オンラインストアはこちらです→
Fishig jacket ブラック/ カーキ
FIshing vest ブラック
Multi pocket vest チャコール

ちょっとした事 チョコっと勇気を ~ K.ITO/ ウールモヘアシャギー チロリアンジャケット

靉靆とした9月とは打って変わって、鬱憤を晴らすようにおひさまぽかぽかな10月。

そんなわけで、近頃昼はだいぶ暖かい日が多いのですが、それでも朝晩はしっかりと冷えるようになり、加速する日の短さもあって秋の深まりは確かに感じます。
天気予報によれば、今週後半からぐっと気温も下がるそうですね。

店頭でも、この先の寒さを想定した服選びをするお客様がチラホラと増えてきました。



寒冷な山岳地帯であるチロル地方で生まれたチロリアンジャケット。
現地仕様の本格派となればたいへん暖かく、そして頑強で、言うまでもなく素晴らしい服ではあるのですが、現代の感覚からすると決して着心地の好いものではなく、比較的温暖な横浜の生活には少々オーバースペックでもあります。

そんなチロリアンジャケットを、おなじみK.ITOが都市生活のための服として生まれ変わらせました。

毛足の長いウールモヘア(+補強のナイロン)の生地は、保温性は言うまでもなく、たいへん軽く柔らかいのも特徴です。

パイピングが要所要所を引き締め、耐久性を向上させるだけでなく、視覚的にも本体のふんわりしたエアリーな質感を際立たせています。

さらに着心地を高めるのが、両脇に接ぎのない筒状の構造です。

立体的な裁断により、人体にまったく逆らわず、実重量よりもはるかに軽い着心地を生み出しました。

この構造もあって、程よいゆとりがありつつもオーバーサイズではない絶妙なサイズバランスが実現し、アウターとしてだけでなく、外套に重ねるミッドレイヤーとしても活用できる、汎用性の高い一着に仕上がっています。

いちおう男性用の服ではあるのですが、いざ店頭に出してみると女性用としての人気も高く、たしかにハイネックなどを重ねると、とてもチャーミングな表情を見せてくれます。

オンラインストアはこちらです→ ブラック/ ネイビー

ブラック・マーケット・ブルース ~ MANAVE/ Marché Coat

傑作・Marché Coatが、この秋も届きました。

とはいえ、入荷直後にそのまま巣立ってしまったものもあり、早々にラスト1着のご紹介です。


デザイナーの真鍋氏がある日パリのマルシェで見かけた素敵なマダムの装い、オーバーサイズのコートを軽やかに身に纏っていたその姿の残像が、このコートの着想源。

それゆえにふっくらとした甘く優しい形状が持ち味ですが、黒いピンポイントオックスフォードだと、ほどよく辛口な雰囲気となりますね。

大きな服を羽織る印象を基にしているため、肩が落ち、全体的にゆったりとしたサイズ感です。

が、ただのビッグサイズではなく、あくまでその中の体に服が綺麗に嵌るよう、肩の傾斜や袖付けが緻密に計算されています。

たとえば袖。
それ自体は太いのですが、袖口にかけてゆるやかに絞ることで、単なるサイズの大きな服ではなく、意図的な設計であるのが見て取れます。

モデルとなったマダムがそうしていたように、袖を多少捲って着ることも想定されたデザインです。
袖口の芯には柔らかいものを使用し、捲ったときに裏地が出づらいよう、袖口の折り返しは深めにとられました。

こうした細やかなデザインが、このシンプルな服に生命を吹き込みます。

たっぷりしたAラインのようで、袖同様に裾も若干すぼまっているのも無視できません。

この傾斜によって、たっぷりと空気を含んだ軽快なシルエットを生み出しながら、過剰な広がりを抑え、上品なサイズ感に着地させることに成功しています。

裏地はさっぱりとした薄手のコットン。

防寒性、防風性を高めすぎていませんので、気温がそこまで低くない秋や春にも使いやすいはずです。
そしてもちろん、中に重ねるもの次第で、真冬にも対応してくれます。

どこをとっても完成度の高さには唸る他なく、毎回ご好評いただくのも当たり前のコートですが、この服のこの柔和な雰囲気、フランスのMANAVE指定工場だからこそ成し得るものではあります。

昨今の国際的な状況や国内の政治経済事情など、欧州でのものづくりは、年々厳しさを増す一方。

こうしてご紹介できるいまのうちに、是非一度ご検討ください。

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指の先でメルヘンして ある種のカーブ描けば ~ ATOZ/ ATOZ SHIRT

昨年の秋、そして今年のGWと、2度のポップアップイベントを経て、着々とお客様からの支持を集めてきたATOZ。

なかでも定番のATOZ SHIRTは、イベントでお買い上げいただいた方から、後日色違い生地違いで欲しいとご要望をいただくことも。

というわけで、秋らしいチェックを仕入れました。


デッドストックの生地を使用することが多いATOZ SHIRT、いつどんな生地が出てくるかは一期一会です。
しかしそれだけに、ピンポイントで「これ!」というものに会えると喜びもひとしおというもの。

今回のシャツは、一見するにコットンフランネルと思わせて、実はざっくりしたドライタッチの生地を用いています。

乾いた質感と、温かみのあるチェックの色彩のコントラストが、実にユニークですね。

さてATOZ SHIRT、イベントではおなじみの型ではあるのですが、きちんとブログで紹介したことがないので、あらためて解説していきます。

ブランド名を冠するだけあって、ATOZそのものを体現したようなこのシャツ。
さまざまな古着のディテールを掛け合わせ、編集して生まれた、単なるヴィンテージの再現に収まらない、まったく新しい服です。

まず襟、ここはフランスの古いワークウェアのもつ緩やかなカーブを踏襲。

台襟を省いた構造で、首元のボタンをどれだけ留めるか、あるいは開くかで、表情が変化します。

両胸のフラップポケットは、プレンティスやビッグマックといったアメリカのワークウェアを彷彿させますね。

袖口のストームカフスは、1940年代のアメリカのワークシャツに見られる仕様です。

ボタンを外してもバタつきにくい形状で、機械作業中の巻き込みや引っかかりを防ぐ目的で開発されたと云われています。

背面を見てみましょう。

バックヨーク自体は1940年代のアメリカのシャンブレーシャツの簡素なスタイルを取り入れています。

ここに、100年ほど前にフランスの羊飼いや家畜の仲買人らが着用していたビョード(Biaude)と呼ばれるスモックに着想したギャザーが組み合わせられています。

こうして、独特のコントラストが生まれました。

ボタンにも手抜かりはありません。

前立て、袖口ともに、2種類の貝ボタンを合わせたリバーシブルタイプを採用しており、ボタンの色を変更したりすることが可能です。

白いボタンと彩りのあるボタン、だいぶ印象が異なりますよね。

いつどのようにどちらを使うかは、お好みや気分でどうぞ。

僕たちが永遠に愛せる服
Mixture of classics
時代・背景・役割を超えたデザイン

ATOZの掲げるコンセプトすべてが、このシャツに集約されています。

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